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安全圏を装うグリーンとグレーの等価交換ハサミの持つ断面光沢のある血潮

他人に精子を飲ませるのが好きだった。遺伝子が僕の身体から誰かの身体に入り込み、中で消化され、糞便として排泄されるまでの過程の中に、もしかしたらと希望を宿すなにかがあり、それは僕と言う名のミクロなパーティカクテルが既存の抽象理論に霞んで、はじけ飛んで燃える火だってここまでのことは言わない。いつか装い新たにみなの基本的な解釈の不一致に洗礼を浴びせる、浴びられたのは白い生臭い液体で、他人の生の象徴が僕で、僕はその誰かに、誰かの意思や意図や不明瞭な意識を確かめたくて、完全になるまでそれをすりつぶした。ミキサーにかけて、漏斗に流して、極まったドリップリキッドをセンチメンタルさで包んで、解釈した。心臓はここで鳴っている、僕は誰かの意思を問う、『君はなぜここに居て、なにをするのか、これからどうしたいのか』。

 

僕はフェラチオしてもらう時は必ず、そいつの後頭部を掴んだ。がしりと頭を両手で掴んで、特に遠慮なく腰を振るのが好きで、えづかれると申し訳ないな、と思うのだけど特にそれで手加減するのとか嫌だったし、本気でそういうことをされるのが好きな連中って割といて、乱暴されたい、でも苦しいのとか痛いのはやめてみたいな甘っちょろいSMなんて興味がなくて、あるのは死ぬ寸前まで痛めつけられる暴力的な映像か、スナッフビデオだった。昔中学生の時にアングラサイトが流行っていて、僕は好奇心からそれを覗き見た。どこか知らないアジア諸国の映像で、檻の中に居る人を引きずりだして、マチェットで思い切り叩き付けていた。その人は思わず自分を両手で庇うのだけど、庇うために使われた両手に深くマチェットが突き刺さり、案外血って派手に出ないんだよね。赤黒い塗料みたいなものが腕に線として滲み出て、それが血豆みたいに全体に膨らんで、際立った演出みたいで、でもその動画の画質の荒さと、出どころが得体のしれない海外サイトのダウンロードだったこと、映像に映っている人がみな肌が浅黒く、痩せていて会話ではなく主に鳴き声を放っているのが僕にこれは本当の殺人映像だ、ということをはっきりと僕に知覚させた。マチェットは何度も、何度も無抵抗な人に振り下ろされ、その度に檻の中の観衆は沸く。次は自分かもしれないのに、それでも自分以外の他人が本当に残酷に痛めつけられている姿に、人は喜びを覚えるらしい。それが平和を愛する先進国の信条とは異なっても、人は根源的にこういうグロテスクな欲望を隠し持っているのが僕には怖かった。

 

でも、一度見始めたら全部見ないと気が済まなかった。ある時はセルフ緊縛のやり過ぎて窒息死した女の人の映像を見つけて、鳥肌が立った。その人は自縛といって、誰かに縛って貰うのが通常のSMの基本なのだけれど、恐らくそれでは満足できなかったのだろう。自分の理想とする縛られ方を忠実に再現するまで、その人は徹底して己の美学を追求したのだろう。そして縛られるだけでは飽き足らず、風呂に沈んで呼吸困難で死ぬ寸前の快楽を求めたのだろう。十分程の映像の中の、最初の一二分は自縛したフルマスク状態のその人が、湯舟に使っていくシーンで、ただ映像が後半に差し掛かるにつれて様子がおかしくなる。その人は暴れ始めて、これが演技ではないということが視聴者に伝わる。一瞬で事故が起こったのだとわかるような途轍もない痙攣が縛られた両足をまるでとれたてのロブスターのように暴れまわらせる。想像を絶する呻き声が水中でくぐもった声に還元されて、最後にはその人はぴくりとも動かなくなり、ただ風呂の蛇口が流れ続ける音だけが木霊していた。

 

メキシコのマフィアは殺人する様子をインターネットに放流し続け、それがニッチな界隈で爆発的に流行していた。たぶん調べれば今でも出てくると思うけれど、溺死、轢死、焼死、首切り、腹切り、皮剥ぎ、目玉くり抜き、四肢切断。およそこの世のものとは思えない映像の全てが大勢の人の好奇心を刺激するのは、きっと僕らの先祖がずっとそういうものと隣り合わせに生きて来ていたからだ。残酷なショーを、僕らはコロッセウムで猛獣に食い殺される奴隷のことをお伽話のようにしか聞けないけれど、あれは実際にあったことなのだ。歴史学を学ばなくても、資料なんて読み込まなくても、人が死ぬ、もしくは殺される瞬間をイメージすることが人々の脳にこれだけの強烈なインパクトを与えるのは、遺伝子に刻まれているから。僕は喉を鳴らして僕を受け入れる目の前のこいつに、自分の竿を思い切り突き立てて喉の奥で射精をした。

 

何度も、何度もそうやって、他人に精子を飲ませた。僕は無理やりするのが好きだったけれど、無理やりされるのが嫌な人と言うのも割といて、そういう人に対しては徹底的に猫を被った。あたかも自分がハイソな文化に触れた知識人が退屈な日常にメランコリーを感じてそれを美学にするみたいに、退廃的な香りのする言葉を途中途中にはさみ、そいつらを魅了した。出来ていたのかはわからないけれど、僕は人に行為を断られたことが無い。基本的にはみな受け入れてくれるし、なんなら少し好奇心の色合いを示す。僕に対して、なんだか未知の希望らしきものまで描き始める人もいるけれど、僕はそういう心情を透かして見た時に、退屈だなと思う。それよりも身も心も僕に尽くしてくれる、あほな子の方が好きだった。会話の知識なんてなくていいから、ただ尻振って、肉棒に奉仕して、懸命に僕の周りの世話をしてくれる子の方が断然好きだった。別に男に知性とか要らないから。

 

ある時、尽くすのが好きって自分から言ってくる男の子のランデブーした。その子はフリーで、僕には彼氏がいた。けれど、僕は彼氏があまりにも性行為をすることを拒むものだからフラストレーションがたまりすぎて、僕はアプリでこっそりとやんちゃな行為を楽しんでいた。その子は顔がかわいくて、身体つきはだらしなくて、でも顔がかわいくて、性格とかはよくわからなかった。でも声が優しくて、おっとりしていて、ちょっとあほの子そうだったし、実際それなりにあほの子っぽかったんだけど、でも僕はその子と二人でカラオケに行って、わざと隣に座ってその子の反応を見た。乗り気だった。口では「だめだよがみくん」とか言うんだけど、ノリノリなことが伝わってきた。僕はもう美味しい食べ物を目の前にしたカツオドリみたいに狂気的な色合いが目に血走っていたと思うけれど、その子はあほの子だから気付いていなさそうだった。前の彼氏とうまく行かなかったらしい話と、でも好きだったんだって話を僕にしてくれて、僕は早く二人っきりで横になれる場所に行きたいなあとしか考えてなかった。

 

その子と初めて会った日に、家に来てもらった。もうそういう目的だし、僕は別にそういうことをすることに抵抗がないし、なんならたぶん向こうの方が淫乱だし、メスブタっぽいその子のことが僕はたまらなく可愛く思えて、いやらしい身体付きも、難しい話を理解していないであろうすとんとした表情も、垂れた目も、きゅっと吊り上がった口角も、全部かわいくて、ああ早く滅茶苦茶にしたいなあと思い、それで二人でベッドに横になった瞬間にえっちをした。

 

その行為の様子を詳しく書くこともできるけど、僕は官能小説を書きたいわけではなくて、物事の本質を描きたいだけだ。僕らは不貞行為に身を汚し、僕はその子の喉の奥に深い射精をした。ストロークは、十回くらい?びくんびくんと僕の末端が痙攣し、一週間くらい貯めた精子をその子が喉を鳴らして飲み込んだ時に、猛烈に抱き締めたくなった。いや、もう既に抱きしめているんだけど、そうではなくてもっと想像を絶するくらいに甘い、魂ごとを支配したくてたまらなかった。

 

その子はそんな僕のことをまるで理解していなかったんだろう。ただ僕の見た目はその子にとって悪いものではなかったらしく、僕らはその後、何度か家にその子を招いてエッチをした。尻の穴も使った。使われ過ぎてがばがばの、かなり緩い穴だったから僕は満足に射精できなかった。けれどその子はまるで性風俗のサービス業をしてきたかのように僕に手取り足取り、こうすると気持ちいいよと言って快楽を靡いた。僕はそれを見つめながら、こいつ変態だなとか言葉で思い切り罵ろうと思ったけれど、声に出るのは甘い囁きだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は当時彼氏が居て、でもその彼氏は最終的に僕のことが好きではなかったらしく、僕らは一年と三か月で別れた。今になって思えば僕はなんであんな人と付き合っていたのだろうと思わないでもないのだけど、でも僕はなんだかその時、自分の根源にあるものが掴めないでいたし、それが掴めないならほとんどなにもないことと同じだった。考えは乳首と共有されて、僕は一人遊びをするときによく乳首をさわった。左の方が感じるから、左の乳首だけをいじりながら段々と透明な液体を垂らす自分の肉棒を見て、ああなんか生きてるな、と神妙な気持ちに耽ったものだ。僕の当時の彼氏は、そんな僕を「汚らわしい」と言った。

 

「ブタ、デブ、ブス、淫猥、雌豹、尻軽、トド、カバ、ビッチ」

 

こんな感じのことを毎日言われていて、僕はそれが心地よくはなかったけれど、でもこの人はたぶん僕のことが好きなんだろう、好きだから照れ隠しでこういうことを言っているんだろうと考えていた。けれど別れる時に、「最初から好きじゃなかった」と言われ、僕は西荻窪の路上で泣いた。彼は僕の背中をさすって、励ましてくれた。

 

励ましなんていらなかった。僕はあなたとパートナーとして生きていきたかったのだ、とエモーショナルな感慨に耽った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その子と逢瀬を繰り返す度に、段々その子の感覚や、見ているものがわかってきて、例えば女性アイドルが好きで、ポケモンが好きで、ゲームが好きで、漫画やアニメは見なくて、アプリで相当にやんちゃしていること。本人はそれを火遊びだと思っていないことなど、僕は意外にも、あほの子に見えてやることをやっているその子を面白いと感じるようになった。ただかわいいだけじゃないんだ、この子。

 

その子はよく僕に長年連れ添った彼氏のことを話してくれた。一度だけ写真を見せてもらったけど、ブサイクだった。顔もかっこよくないし、腹も出て不健康そうに膨れ上がった釣り上げられた深海のタコみたいな人物がそこに映っていて、もったいなと思った。もったいなさすぎるよ、おれと付き合おうよ、君かわいいもん。おれの方が君を幸せにできるよ、とか本当に思った。

 

でもその子は、そんな彼氏のことが好きだったらしい。写真を見ているその子の顔は、熟年の婦人みたく穏やかで、慎ましくて、ああこの子は本当に誰かに尽くすのが好きな子なんだと思った。僕はそれを分かった瞬間、猛烈にその子に種付けしたくなった。

 

普段僕はゴムを付けていた。それはその子が僕に必ずつけさせていたから、渋々そうしていたのであって、つけなくていいならつけたくなかった。その夜も二人で性行為を……たぶん二時間以上したのかな?二人でベッドに向かい合って、僕はその子の表情を見つめた。

 

黒い瞳に、ほんの少しブラウンが透けている、なんというかアイドルみたいな内斜視だった。女の子に生まれていたらアイドルでもおかしくないくらいの、天真爛漫なその子はワイルドに顎髭を蓄えて、ゲイにモテる感じにアレンジをしていて、上地雄輔が元々タイプだった僕はその子の風貌にそれに近いなんらかのシンパシーを感じて、ますます好きになった。

 

「エッチすると好きになるんだよね」

 

その子は僕によくそう言った。最初はその意味がわからなかったけれど、僕は今、その意味はよくわかる。

 

「種付けしたい」

 

孕ませたい。僕はその子にせがんだ。その子は僕の口に手を当てて、「だめだよがみくん」と言った。「だめだよ、僕は二番目に好きな人。お互いに、二番目に好きな人で居よう」そう、その子には今付き合おうとしている彼氏候補が居た。

 

僕は前からそれを聞いていて、その子は僕と初めてエッチをした翌日に彼氏を作った。けれど僕は僕として会ってくれていた。気付けば二人とも彼氏がいるのに、いつの間にかエッチをする間柄になっていた。

 

共犯関係。ハサミの表裏。二枚刃に映る僕たちはそれぞれ違った運命を歩む旅人で、それを光沢のある血潮が包んでいる。ほうれんそうを入れたカレーを、その子は僕のために作ってくれた。僕が在宅ワークをしている中で、ずっと僕の側にいて、買い物に行ってくれて、カレーまで全部作ってくれた。

 

僕はカレーが出来上がるまでの間、その子に奉仕をしてもらった。パソコンで取引先と通話をする中で、その子は僕の足の間に潜り込み、僕の竿を頬張っていた。「集中すると萎えるね」と萎えたちんちんを指で突きながら、また固くなってきたらしゃぶる。そんなことを繰り返していた。

 

よくもまあ、一時間以上もしゃぶれるよなと思うけれど、こういう子を本当に乱暴に犯したいという欲があって、でもそれは僕の中での欲としてきちんと処理できていれば別にそれでいい話で、僕は出来上がったカレーを二人で食べている間も、その子の様子を伺っていた。もう彼氏できてるのに、すごいなって、自分もやばいことしてるのに、なんていうか本当にそう思った。

 

「二番目に好きな人だから」

 

僕らが最後にエッチをした時も、その子は僕にそう伝えていた。一線を超えないようにって、既に口内射精も、アナルセックスもしているのに種付けだけは拒むっていう、そこにきらめいた純情を醸す辺りがゲイって本当にろくでもない生き物だなあとか思わないでもないんだけど、僕はそれでもその子が僕に尽くしてくれた時間や、甘い蜜をよく覚えているし、これが共犯関係にあるものだったとしても、僕らはそれを好んでやっただろう。またたまにその子が会いにきてくれることを密かに期待しているけれど、その子はたぶん今頃、別の人の竿に夢中で、今もぷちんぷちんとその巨体を思う存分振っているんだろう。性行為のために生まれた、聖なる天使として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は何度も火遊びをしたし、でも選ぶ相手はできるだけ性病を持っていなさそうな、肌の白い子を選んだ。日に焼けていない肌の色が好きで、特に下腹部の、なんとも言えない香ばしい香りがたまらなく好きで、でも僕は汗の匂いが嫌いだから、汗っかきの人はそもそもで嫌だったし、性行為の前と後には必ず風呂に入った。シャンプーの香りが付いた陰毛って、なんでこんなに愛らしいんだろう。不潔の象徴のはずなのに、一つの生物みたいに思えるのは僕が淫猥だからでも、ビッチだからでもなく、ただ純粋に、好きだから。僕はこういう男性の肉体に美を求める生きものだし、それは現代では『かわいい』に変換されがちな言葉ってだけの話しだ。

 

これが普通かって思う。こんな風に他愛もなく、どこにでもあるスーパーで食材を買って、それを大鍋で何日分かを作って、タッパーに入れて保存するこんな風景が、僕は素晴らしく祈りに思えるし、不可解だし味気ないし、爆発四散しそうなほどの情熱、焦燥感、全部が入り乱れて、僕の魂を呼び掛ける。君は素敵な快楽依存症の人で、

 

そんな下腹部を切り裂いたら、中から赤ずきんが出てくるのかな。そうなると二枚刃のうち一つだけが赤ずきんには世界の天井を切り裂く光に見えたはずだ。その裏面、中小的なセパレートされた抒情を、一切の式に変換し、落とし込むのが僕の指名で、あの子に飲ませた精子は完全に無駄だったかと言うとそうではない。あの子の腹の中で、子供とは別のなにかとして、その子の感情を揺さぶったに違いない。

 

「遺伝子が欲しいんだよね」

 

大学自体によく男と遊んでいた女の子がそう呟いていた。僕はすごいこというなって驚いていたのだけど、今は気持ちがわかって、僕もあの子も、それを言った女の子も、元彼も、先日別れたばかりの今彼も、全部共犯なのだ。僕らは互いを監視し合って生きている。波長を、足並みを揃えながら今日も生きている。

 

それがなんなのかはよくわからないけれど、味気のないものはいつだって美味しくはないけれど、たぶん歌だ。音と声が混ざる瞬間、それが鮮やかな光景を描くように、たぶん歌みたいなものだ。僕はそれを景色として捉え、今日も一緒に犯した罪を楽しく思い出すという遊びに耽っている。呼吸は、常に等しく僕らの心拍数のパロメータで、それは酷く安全圏から放たれるグレーの等価交換として、今も色彩を豊かに魅せ続けている。